今年で第10回となる、医療・介護・福祉フォーラムが、11月3日(水・文化の日)に志太医師会館講堂にて、開催されました。コロナ感染症の蔓延のため、会場・日時とも変更。一時は開催自体が危ぶまれましたが、玉置先生、そして関係機関の皆様のご協力の下、開催することができました。

この医療・介護・福祉フォーラムは、もともとは志太医師会の会員の先生方による勉強会。これが発展した形で出発しました。その後、先生方だけでなく、多職種との連携を掲げ、「価値観の共有」「在宅医療の素晴らしさ」を実感できるようなフォーラムを目指し、症例検討会へと変化してきました。複数の困難事例について、1症例毎に在宅主治医そして関係する様々な職種の皆さんが壇上に登り症例を検討する。それを参加された皆さんに聞いていただき意見をいただく形式をとっていました。

そして、今の講演会形式をとるようになったのは、第8回からのこと。第8回は、長尾和宏先生をお呼びして、「平穏死について~多くの人が地域ですべきこと・かかりつけ医がすべきこと~」をテーマに、第9回は、秋山正子先生をお呼びして、「住み慣れた地域で、最期まで自分らしく暮らすために」をテーマに講演していただきました。そして第10回は玉置妙憂先生に「地域で看取り看取られる~スピリチュアルケアのすすめ~」をテーマにお話しいただきました

【講師の玉置妙憂(たまおきみょうゆう)先生】

講師プロフィール

看護師・僧侶・スピリチュアルケア師・ケアマネジャー・看護教員

夫の“自然死”という死にざまがあまりに美しかったことから開眼し出家。高野山真言宗にて修行を積み僧侶となる。現在は非営利一般社団法人「大慈学苑」を設立し、終末期からひきこもり、不登校、子育て、希死念慮、自死ご遺族まで幅広く対象としたスピリチュアルケア活動を実施している。さらに、講演会やシンポジウムなどで幅広くスピリチュアルケア啓発活動に努めている。

当日は、会場定員50名で開催。WEBでも同時配信を行い、沢山の方にご参加いただきました。

~ 先生のお話から ~

・現在は、高齢者人口の増加に伴う多死時代を迎え、専門職の意識も「在宅で看取ることができる」との意識に変わっています。そんな中、自分の死や身近な人の死に直面した時、「人は死んだらどうなるんだろう」等、問われても答えられない言葉を発することがある。

・この「生きる意味」や「死への恐れ」に対する苦悩は、「スピリチュアルペイン」と呼ばれます。ただ、スピリチュアルペインに対しては、どんな方法をもってしても、解決にはなりません。答えがもともとないのです。

・この言葉をかけられた人は、「黙って、ただ聞くこと」が大切で、これがスピリチュアルケアを成立させるのです。

・答えられない問いかけを向けられる医療者・介護者も同じように苦しみを追っている人であり、看取りを支援する人たちへのケアも大切です。

・人の器は、守るべき人の数と、どれくらい先のことを考えているかで決まります。死について考えたことがある人は、人間の器が大きくなるんじゃないかなと思っています。

・自利(自分のための利益)をもって利他(人のための利益)をなす。この二利を回すことが大切です。自分自身が満たされていないと、誰かのためを思うことは難しい。まずは自分自身を満たしましょう。

先生のお話は、看取りに立ち会う医療・介護の職員介護者にとって、今後の関わりへの大きな指南となりました。

参加いただいたみなさんからの感想のほんの一部ですが、ご紹介いたします。

【会場参加の方からの感想】

・スピリチュアルケアの大切さがわかりました。勉強になりました。ありがとうございました。

・自利を満たすこと、大切ですね。介護職ですが、利用者さんに癒されたり、ふとしたうれしさを受けて、自然に満たされているかもしれません。

・父の看取り、在宅はかなわず、毎日見舞いに通い、最期、ただただ足や手をさすって過ごしていたのを思い出し、それでよかったんだとホッとしました。

・精神的なケア、させていただく前に自分を大事にしなくてはなりませんね。

・”自利をもって、利他に励め”日頃の心の持ちようがいかに大切かを痛感しました。困っている人、つらい人のかたわらにいることを職業に選んだ自分に具体的な寄り添い方を教えていただき、本当にありがたかったです。もっともっとお話をお聞きしたいです。

・今回初めてフォーラムの開催を知りました。自分の心の持ち方を考えたく参加しました。お話が聞きやすく気持ちが楽になりました。

・黙って聞いているとわかってくれていると思われるのは、日常でも自分のこと、家族のこと、職場でのお客さんのこと、死ぬこと生きることについて考えるきっかけになりました。

・気持ちがすごく軽くなった気がします。自分を満たすことで回りを満たすこと、安心しました。

・病人の方本人以外の家族や医療スタッフもケアが必要だと聞いて、本当にそうだと思っていたので安心しました。

【WEB参加の方からの感想】

・現代医学の現状や本来のスピリチュアルの話等、とても興味深くおもしろかったです。

・黙って聞くこと、猫を見習うこと等、面白く話をされていたましたが、今後にとても役立ちそうです。

・死に対する考え方を改めて考える良い機会だった。

・介護に関わっている仕事をしているので、最近、看取りの方の対応をしたばかりで足りなかった自分、頑張った自分をみなおしたい。

・自分もするする人間になろうと思う。

・長生きをしすぎた、早くお迎えが来て欲しいと言われる方がいる。何も答えられないだまって聞いているだけで心が重かった。何か言わないといけないと思っていたが、講演のお話を参考にさせていただきたい。

・認知症の母の介護に悩んでいた時、只々頷きながら話を聞いてもらい、とても心が軽くなりました。そして私は誰かのためでなく、私が話す場所と分かり合える仲間が欲しくて、認知症の家族会を立ち上げ仲間が増えました。自利と利他のお話を聞き、誰かのためからのスタートでなくてもよかったんだとホッとしました。スピリチュアルペインやスピリチュアルケア、器の話、現代医学のこと等どのお話もとても分かりやすく参考になりました。

・病院で最期を迎えられる方が多く、今の子供たちが「死」というものを身近に感じられなくなったこと。延命治療への家族の葛藤。(胃瘻のお話)私もいずれは経験するではあろう問題への覚悟ができました。

引き込まれるような語りに、あっという間に時間が過ぎてしまいました。時には笑いがあり、時にはしっとりと聞き入り、充実した時間をいただき、終了となりました。玉置先生、ありがとうございました。(2022年1月掲載)